第7章 無意味なひと
「震えておりますわよ?まさか今更怖いだなんておっしゃるのですか?」
哀れな公爵。今から私に地位も何もかもを奪われて死ぬこの男。
とうとう腕の力もなくなったのか拳銃が赤いカーペットの床に落ちる。
セバスチャンはくすくすと笑い、公爵の鼻に触れるか触れないかのところで顔を近づけるのをやめた。
私は力のなくなったオリオットの腕を持ち上げて、胸の中から脱出するとオリオットの後ろに立った。
臭い。そう思ったが矢先、私の黒のドレスの尻の部分と太ももの裏側にあたる部分にシミが出来ていた。
オリオットはだらしなく失禁していた。社交界一、二を争う美形が呆れる。
最後の最後まで美しくあろうとは思わないのだろうか。
「お嬢様、お召し物が汚れております。今すぐお取り替えを」
「いいわ、ここから下だけ切って。あとは帰るだけだし」
セバスチャンは禍々しい黒の翼をしまい込み、いつもの執事の姿に戻ると私の腰から下の部分の黒のドレスを手で千切り、その場にあったカーテンで繕った簡易的なスカートを目にも止まらぬ速さで縫い付けた。
「おっおい!ドレスの心配より私の心配でしょう?!」
オリオットは元気を取り戻したのか床に落ちた拳銃を拾い上げて私に向かって一発撃った。しかしその弾は私に当たらず、セバスチャンが舌の上に弾丸を乗せて笑っていた。
「そんなことが…人間に出来る訳が…なっい…」
「人間なら、ね」
セバスチャンがオリオットの耳元でそう呟くとオリオットの腹にパンチを加えた。瞬間、オリオットが口から大量の血を吐き出して壁に打ち付けられた。
私はそのオリオットに近づく。