• テキストサイズ

【黒執事】壊れた貴女を看取るまで

第7章 無意味なひと


「こんばんは、セバスチャンさん」

後ろから声をかけられてセバスチャンが後ろを振り向く。
迂闊だった。
私はこの男に後ろから捕まえられてしまい、こめかみの所に拳銃の銃口を突きつけられていた。
セバスチャンはその様子を見ても何の顔色も変えず、オリオットを見て優雅にお辞儀をした。

「こんばんは、ヒューズマン公爵」

「あなた、すごいですね。あれだけの軍勢を一人で打ち破ってしまうとは」

オリオットの口元が歪む。恐ろしいのだろうか、手が震える。
私はオリオットの腕の中で2回目のあくびをした。

「お褒めに預かり光栄です…しかし、一人で真っ向勝負では勝てないと思い、こうしてお嬢様を人質にとっておられる訳ですね」

わざとらしく考えるフリをしてセバスチャンは一歩ずつ一歩ずつゆっくりと歩み寄る。
ホールに踵を鳴らす音だけが聞こえた。

「それ以上近づくな。可愛らしいリュシアンナ伯爵の頭に血の花を咲かせたくはないでしょう」

「セバスチャン、早くこいつを始末して」

私は肩に流していた黒髪を左肩にのせた。すると薄っすらと浮かんだ契約印がより強い輝きを放つ。
首筋から青白い光が突然出てオリオットは私の首筋を凝視した。円の中に複雑な星の形に謎の模様の見たこともないタトゥーのようなものを凝視したくなる気持ちは分からない訳でもない。
しかし見惚れていては食われてしまう。

「さあ、引き金を引いてみたらいかがでしょう?オリオット様」

私はそう尋ねて瞳をオリオットに向けた。自然に笑みが溢れそうになった。オリオットの優しく美しい人々を魅了する顔立ちが情けなく歪み、今にも鼻水を垂らして泣きそうな顔になっていた。
目の前の怪物を目にして腰がひけており、引き金にかけていた指が震えている。
きらびやかなシャンデリアの輝きは消えてホールは闇の色に包まれる。
ともしびとして揺らめくのは悪魔の赤い目の色と私の首筋の首輪だけだった。
/ 221ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp