第1章 一輪の花
セバスチャンは晩餐の準備をしながらアイリーンのことについて思考を巡らしていた。
ーアイリーンという生き物はよく分からない
今日の晩餐に使うシカ肉を切り、手早く下味をつけて下準備を済ませる。
メインディッシュの下準備が済んだら、デザートのラズベリーパイの生地を混ぜていた。混ぜれば混ぜるほど生地はどんどん色形を変える。ふと脳裏にある人物が浮かんだ。アイリーンだ。
不機嫌な顔をして見せたり、驚いた顔をして見せたり、好奇心にあふれた顔をして見せたり。まだちゃんと笑った顔は見たことないが、少なからず笑うと可愛いのだろう。そんな顔をしている。
キスなんかになんの意味があるのかは分からないが、唇にした訳ではないのに顔を赤くして恥じらうのはなぜだろう?
自分への好意は感じられないのに恥ずかしがってなぜ怒らないのだろう?分からない。
混ぜた生地にバターをぬり、層になるように重ねていく。
ー外はサクサク、中は甘酸っぱいラズベリーがとろりと出てくるようなパ…
ドカーーーーン!!
厨房の端で爆発音が聞こえる。
セバスチャンは重々しいため息をつくとバルドの方へと歩んでいく。
「…一応、理由を聞いときましょう」
厨房の端のレンガがボロボロと崩れ、澄み切った青空が顔をのぞかせている。
「シェフの気まぐれサラダを作ろうと思ったんだけどよ、どーもこの火炎放射器の威力が強くてな」
「…サラダに火炎放射器はいらないと思うんですが…」