第7章 無意味なひと
「ふむ…火薬の香りがいたします。危険ですので私の後ろに」
火薬となると私では手がつけられない。私は大人しくセバスチャンの背後に隠れた。
セバスチャンがドアノブを回す。
刹那。豪雨のように弾丸がドアノブを枯葉のごとく吹っ飛ばして華やかな雰囲気だった夜会を赤く染め、床には数名の亡骸が転がった。
引き裂く悲鳴と金切り声がホールをいっぱいにして人々が逆側の扉から出ようと走り出す。
それさえも許すまいと銃を持った集団は無防備に背中を向けた哀れな貴族に鉛の弾丸が撃ち込まれる。
横で友人が倒れたのだろうか、素敵なヘッドドレスをつけた貴婦人が力をなくして床に座り込む。
しかしその貴婦人には誰も手を伸ばさない。ついにはその貴婦人にも弾丸があたり、勢いよく床に倒れた。
「セバスチャン、今すぐ攻撃をとめて。私は前の玄関を開けてくる」
ドレスの裾を捲り上げてガーターにくくりつけた銃を構えて前の玄関のドアを破る。ドアが外れたことにより、綺麗な夜空が広がる外の景色が見えて、それに希望を抱いた貴族たちが駆け足でホールを出て行く。数十秒もすれば貴族たちは1人もいなくなっていた。
私は自分の役目を終えて後ろを振り返る。
そこには真っ黒な大鴉がいた。
料理の乗ったテーブルを次々に盾にし、攻撃が止まるその一瞬をついてナイフを投げ込む。どどどどと鈍い音を立ててナイフがささり、次々と人が倒れた。
その鴉は笑っていた。
「楽しんでもらえてますか?」
首に腕をかけられて誰かの胸の中へと誘われた。