第7章 無意味なひと
「では私と恋人になりたいのですか?」
「ぶはっ!!」
口の中に入っていたホットミルクが全部外に勢いよく噴射されて、手元からティーカップを落とす。瞬く間に白いネグリジェは肌の色が透けるほど濡れ、セバスチャンの髪もミルクで濡れていた。
辺りには牛乳の香りが漂う。
「ホットミルクを噴出されるほど動揺したと解釈してもよろしいですよね」
「いやっ、ちょっと!」
セバスチャンが私を押し倒してネグリジェの裾をめくり上げようとする。私はセバスチャンの肩を押し返そうとするが、悪魔にこんな力が通用する訳がなく、両手首を掴まれて手で拘束されると唇に唇を重ねてきた。
ぎゅっと目をつむり、なすがままの状態になってしまう。するとセバスチャンが唇を離し、首筋へと指を這わせた。
冷たい、蛇が這っているようなもどかしさに私は思わず体をピクンと揺らした。
「この契約印がある限り、貴女がどんな男に誘惑されようが惑わされようが私も貴女も互いのもの。惑わすことも狂わせることもお互いにしか出来ないのです」
「なにそ、ふぐぅっ」
手袋を外したセバスチャンの二本の指が私の口へと入ってきた。舌を指先で掴み、弄んだかと思えば、今度は激しく抜き差ししてくる。
ままならない呼吸を強いられて私はどんどん頭が回らなくなってきた。
そんな様子を見たセバスチャンは私の口から指を抜くとそっと額にキスを落とした。
「ですので、婚約者なんてものは選ぶだけ無駄なのですが…世間体とは難しいものでございますね」
「落ち着いて、あなたの目、今赤いわ」
真っ赤に光る瞳が私だけを見つめる。その瞳に捕らえられてしまってはもう動けない。
セバスチャンは牛乳に濡れたネグリジェを私から一気に剥がした。