第7章 無意味なひと
セバスチャンが最後の書類の束をまとめる。
1時間でこなせるとは思えない書類の量をこなした私はなかなかすごいと思う。
手を上に伸ばして大きく背伸びをすると体の色んなところからゴリゴリっと音が鳴る。
「お疲れ様でした。お部屋にホットミルクでもお持ちしましょうか?」
「ええ」
セバスチャンが一旦退室すると、私もほとんど後を追うようにして仕事部屋から出た。
仕事部屋と私室はすぐ隣にあり、疲れたらそのまま寝れるように設計されている。
腕の匂いを嗅いでみると甘ったるいミルクの香りがした。
私が部屋の扉の前に立った途端、扉が開いた。
「どうぞ」
柔らかな笑みをしたセバスチャンが扉を開けていた。私は無言のまま部屋に入った。
私がベッドに座るとセバスチャンは素早くかつ丁寧な動作でホットミルクをカップに注ぎ、私に渡した。
それを一口飲むとじんわりと体が温まり、ほっと息をついた。
「お嬢様、明日のご予定ですが、ヒューズマン公爵家で夜会がございます」
「ヒューズマン公爵ねえ…裏社会に精通してるうちの1人だわ。関わりたくない」
一気にホットミルクを飲み干して私はワゴンの上にティーカップを置いた。
「ですが、ご参加されないとなると表社会が上手くいかないのでは?」
オリオット・L・ヒューズマンは人脈が広い。それに人当たりの良い性格に美しい容姿が相まって、社交界では華の中の華である。
彼の誘いを断ることはイギリスの社交界から出るということを意味しているに等しい。
私は眉間にシワを寄せてベッドに寝転がり、布団をかけた。
セバスチャンはテーブルに置いてあったロウソク立てを持つとそれをワゴンに置く。