第7章 無意味なひと
私は鋭い語気で言い切った。悪魔を飼っているのは私。
私が主人。
「あなたは私のただの犬にしかすぎない。犬が私に楯突こうとするな」
私は2番目の引き出しを開けて銃を取り出すと、セバスチャンの眉間に押し当てた。
セバスチャンはさっきよりも薄気味悪く笑う。
「…いつまでもお子様だからと言って甘やかすのもやめにいたしましょう」
私から身を遠ざけてワゴンの側へと戻ると私に向かって黒い羽根でも広げるような美しい所作で跪いた。
その所作を見た私は思わず背筋を伸ばしてしまった。
ー私にこんなもの飼えるのか?
美しい悪魔。ただ自らの美学を追求し、溺れるために私と契約した怪物。
その気になれば、その私と悪魔を結ぶ歪な首輪と鎖さえ切って解放すれば私の首元を掻っ切る怪物を私は制御して飼えるのか?
悪寒。恐怖。未来の見えない闇。
でも、私は未来を見ようとだなんてしてない。
この悪魔を飼いならしてしまえばいい。
「貴女の命令ならば地の果てでも、地獄へもお供いたしましょう」
たとえそれが私の身を滅ぼすものだとしても。
私はセバスチャンの元へと歩み寄ると右手を差し出した。セバスチャンは私の右手を取り、そっと口付けると私の目を見た。
「イエス、マイ・レディ」
すっかり窓の色はオレンジになっていた。