第9章 7:ほんまるのはなし B
こうしていれば、ただの年相応の子供なのだが。
思わずため息をつく。
内実はあまりにも、子供のものとはかけ離れていた。
不老不死で見た目だけ子供、という訳では無い。
主はいたって普通の人間だ。
しかし、その十数年には気苦労が多かったようだ。
そも高官の一人娘であったため、
親には政略結婚の道具として扱われていたらしい。
あれこれと習い事をさせられ、
家族に褒められることなく教養を積み重ねた。
厳しい家風に寄り付かない友人。
孤独な主に両親は囁く。
“あなたに優しくしてくれるのは、
将来結婚する運命の恋人だけ”
“あなたのことは親が一番知っているから、
一番幸せにしてくれる人を選んであげる”
そんな生活が続き、
主は親や夫の言うなりの、若くて可愛らしい
よくできた花嫁人形になる……はずだった。
はずだったのだが。
「家族とか恋人がいなくても、
環境さえ整ってれば別に死なないんだよねー」
本来俺のものであったはずの漬け物を
何故か摘んでかじりつつ、主は言った。
書庫から隣の執務室に引っ込み、
ローテーブルで主が持ってきた昼食を食べている。
向かいに座る主の手元にあるのは、
以前解体した本丸の資料。
ブラックからの復帰は成功させたが、
出陣の意欲まで失わせた、元審神者のデータだ。
「何です? いきなり」
「いや、この前かねぴやにね、
本丸解体のことを説明したんだけど」
「かねぴや」
誰だそいつはという目を向ければ、
「大包平ね」
訂正が入った。