第9章 7:ほんまるのはなし B
……表向きは、の話だが。
実のところ、電池代わりにされているのは、
禁呪の霊力だけではない。
客観的に見た主は、
政府高官の親族であり、まだ年若いただの小娘だ。
世間に出たこともなく、しょっちゅうふざけ、
振る舞いには威厳のいの字も見当たらない。
しかし、軽薄を絵にかいたような小娘の本丸の
戦績はどうだろう。
顕現させた男士の様子。戦力。審神者自身の練度。
立ち振る舞いで取り繕えない数々の要素を総合すれば、
厳しく見積もっても、上位と言って差し支えない。
前評判のみを知っていたよその審神者が、
初めて主を目にした時の愕然ぶりときたら。
前評判を知らず見下していた審神者が、
主の評価を知った時の、泡を食った顔ときたら。
思い出すだけでこみ上げるものはあるが、
そんなものを見慣れるにつれて、主に向けられる、
妬み、嫉み、嘲りの類も増していった。
そしてある時、
刀剣男士を破壊する任につき、
評判が広まり始めた頃の話だ。
とうとう他人からの負の情念が、
本丸内で霊障を起こすまでに膨れ上がった。
調査の結果、破壊された元男士の恨みが、
些細な負の念を増幅させていたらしい。
それを知った主が、禁呪を動力源にする案を、
あの手この手で政府に通すまで、
さほど時間はかからなかった。
現在では、危険度の高さゆえに放置されている
ブラック本丸の穢れすら吸い上げて、
霊力に変換している有様である。
何がどう役に立つかは、わからないものだ。