第8章 7:ほんまるのはなし
「主にくっついて回る個体が目立ってたから。
長谷部も過半数の個体は主の番犬みたいな感じみたいだし、
うちのも少なからず警戒するんじゃないかと思ったんだよね」
「それで争いになると判断したのか。
些か早計な気もするが」
「気構えくらいしても損はないでしょ?
あんたが来てる本丸は少ないみたいだし、
そういうイメージがたくさんの審神者に広まっちゃうと、
俺たちも"そういう方向"に曲がっちゃうんだよ」
「そうなのか」
それは聞かされていなかった、と神妙に巴型がつぶやく。
遅れて腹の虫を鳴かせたものだから、
真面目な空気にはならなかったが。
食堂がもう目の前なので、漂ってきた香りのせいだろう。
気持ちはわかる。自分だって稽古着のまま、
顔と手だけさっさと洗って直行してきたのだから。
外見を整えるのは、腹ごしらえの後だ。
ネイルも髪も、その後で何とかすればいい。
愛用されちゃうかわいい俺、でいるためには、
まず稽古疲れから回復する方が数倍大事だ。
ああでも、と思い至る。
他の本丸の"加州清光"なら、見た目を整えるまで、
食堂なんかに顔を出したりしないのかもしれない。
男士の性格は、審神者の望みに沿うのだ。
逸話の有無にかかわらず。
こうあるべき、こうするべき、
きっとこういう性格であろう──あってほしい。
望まれていれば、勝手にその通りになってしまう。
だって道具(おれたち)は、そういうものだから。
「続きは食べながら話そっか。
俺とか長谷部はそのあたり詳しいよ?」
少し足を速めながら、巴型に呼びかける。
「だからさ、はやく注文しちゃおう」
腹が減っては戦はできぬ、ってね。