第8章 7:ほんまるのはなし
「大方、目くらましだろう」
通達されてから初めての昼。
顔なじみと午前の稽古を済ませ、
書庫を通りがかったついでに、
書類整理をしていた長谷部と巴型に飯時だと声を掛けた。
長谷部が「切りのいいところまで片づけるから先に行け」
と巴型を追い出し、ぐだぐだと同行する流れになり、
事務方を任されているんならと先の疑問を口にした俺に、
巴型はちょっと考えて予測を披露する。
めくらまし。
なんとなくオウム返ししたところ、巴型は「ああ」と頷いた。
「整理するにあたって、今までの記録は大方目を通したからな」
「その中に監査の記録もあった、と。
で、なんで主が目くらまし企んでるって思ったの?」
「新参の保護のためではないのか。
件の演練の様子は、蜻蛉切から話を聞いている。
いまだに理解が及ばないが、
人間の中には俺たちを戦わせることに
強い負荷を感じる個体もいるそうだな」
「そーね。俺たち見た目は一応人間だし?
同一視してダメになっちゃう審神者はいたよ」
そのような審神者が職務を放棄した、
あるいは滞らせた場合、監査が注意に行く。
そして通告を無視し続ければ、
最悪の場合、本丸解体処分となる。
「今回交代があった本丸は、
うちの本丸と同じくらいの仕事量だったはずだから、
あんなに戦闘に弱腰の審神者になったら……あ」
「まず今まで通りの業務は続けられないだろう。
男士が審神者のコントロールから離れれば、
今までのペースも保てるが、審神者が壊れる」
「ってことは」
「業務が滞ったと判断されるだろうな」