第7章 6:つうほうのはなし ※
なるほど。
どうやら彼女が部屋に入る直前、
会話の一部が聞こえてしまったらしい。
どうしようコレ?と片眉を上げて加州を見ると、
お手上げといった様子で肩をすくめられた。
ですよねー。
涙目になるほどの興奮状態の人に、
話は通じませんよねー。
宥めようとする山姥切に、
新任ちゃんは「でも」「だって」と食い下がる。
先ほど、山姥切が彼女のことを
「戦闘向きではない」と評していたが、
確かに、あまり戦場に長居させてはいけないタイプだ。
刀剣男士は人間の姿をしている。
感情もあるし、人間のように生活できる。
それを慈しむのは良い。
愛することも良いだろう。
だが、人間だと勘違いしてもいけない。
道具だから軽視しているとか、そういう価値観の話ではなく、
……単純な事実として、種族は変えられない。
種族の溝を埋めるには、まず
「そこに溝がある」
と把握し、認めるところから始めなければいけない。
しかし、男士も人間と信じている審神者は、
まず「溝の存在を認められない」。
認められなければ、
そもそも、埋めることもできない。
そうして手つかずで放置され続け、
もはや修復不可能なレベルにまで広がった溝は、
ある日突然、刀剣男士と審神者の関係を、
完膚なきまでに破壊してしまうことがある。
例えば、神隠しとか。
被害者の大半は、
人の痛みに寄り添おうとする人間で、
同時に、男士を人間と誤認していた。
「うーん、ちょっと気になるんだけど」
声を掛けられた新任さんがこちらを向く。
あからさまな嫌悪の目を向けられるが、
それを無視して聞いてみることにした。
「どうして男士が道具とか、
モノだったら、いけないの?」