第7章 6:つうほうのはなし ※
「体調不良、ねぇ」
結果的に、こちらの不戦勝になった訳だが。
「向こうの…引き継ぎ審神者だっけ。
ぶっ倒れるような持病とかあった訳?」
演練場の一画、手入れ用のスペース。
先ほどの戦闘で軽傷を負った男士を手入れしつつ、
傍らに侍るこんのすけに問いかける。
「いいえ、恐らくは心因性の貧血だそうです」
「あ、知ってるよ。
ショック受けてくらっときちゃう、アレでしょ?」
こんのすけの答えに、蛍丸が身を乗り出した。
「明石、サボりの口実に立ちくらみ使うからね…」
思い当たる節がないわけでもない。
同じことを考えたらしい長谷部が、
腹に据えかねるといった具合のため息を吐く。
「まあ明石のことはおいとくとして、
……心因性ってことは、何かやばいものでも……」
やばいものでも見たのか、
あるいは思い出したのか。
そう言いかけて、
たった今手入れしている刀剣男士を見る。
金糸の髪に、翡翠の瞳。
こちらと正座で相対している
紛うことなき美系の類、山姥切国広。
いやそれだけならば見慣れているのだが、
先程の戦闘で相手の首を獲った男士である。
外套を投げ捨て、その上
真正面から相当な量の返り血を浴びたため、
上半身がほぼ真っ赤に染まっていた。
「……なんだその目は。俺を見て卒倒したとでも?」
「あながち、間違いでもないと思いますよ」
こちらの視線に気づいて食ってかかる国広に、
申し訳なさそうにこんのすけが言う。
「正確には、その、あちらの山姥切国広様が
両断された瞬間を、カメラで視認されてしまったようで…」
ああ、とスペース内に納得の声が上がった。
「両断か…慣れてない子にはキツいよね…」
「かといって、手加減する訳にもいきますまい」
燭台切が同情し、蜻蛉切が眉尻を下げる。
「ま、加減の是非はともかくとしてさ、
顔出すくらいはした方がいいんじゃない?
俺たちもあっちの連中と、知らない仲じゃないんだし」
加州が、剥げたネイルを入念に直しながら、
そんな提案を口にする。
今後も当たる可能性の高い相手だし、
私もそれに乗っかることにした。