第7章 6:つうほうのはなし ※
外套をなびかせ、
相手本丸の、自分と同じ顔に向かって、まっすぐに駆ける。
被った布は風圧で背後に流れた。
素顔が顕わになってしまったが、
最早そんなことはどうでもいい。
基本性能は互角。
装備の差でややこちらが勝るだけ。
陣形が崩れたところに攻め入っているのだから、
遮蔽物はなく、横槍も、ない。
単純な一対一。
勝てる。
違う、勝つ。
相手が防御の構えを取るのが見えた。当然か。
柄を両手で強く握りしめる。
こちらも防御を最初からかなぐり捨て、吼える。
持てるすべての勢いを刀身に乗せ、突きこむ。
狙いすました剣先は、しかし冷静に逸らされた。
こちらの体勢が崩れる。
背の上に刃が降ろされようとしている。
そうだろうな。"俺"でも、そうする。
口元が、笑みの形に歪んだ。
右手で外套の結びを解き、
左で本体を地面に突き刺す。
本体を支点に、強引に体を捻った勢いに任せ、
外套をばっと中空へ投げ捨てた。
こちらの急激な体勢の変化。
予想できなかった相手の刃は、
外套をひっかけて空を切る。
一秒にもならない隙だが、それだけあれば十分だ。
仰向けに地に落ちながら、
背筋の力だけで本体を引っこ抜く。
転倒する俺を狙おうとした相手の首は、
いつもより低い位置にある。
重心を右半身に移動しながら、
防ぐもののなくなった首筋へ、本体を切り下ろす。
刃に、確かな肉の手応えがあった。