第5章 5
三日月はおそらく、私が断れないとわかって聞いてきたのだろう。
口元は笑みの形になっているが、目が笑っていない。
仕方なしに、私は口を開いた。
「審神者が禁呪を使用して、無理やりに男士を従えているおそれがある、と」
禁呪。
読んで字のまま、政府が使用を禁止している呪術の類だ。
主に見習いの第一次研修の際に大きな問題となった。
研修先の本丸に持ち込みやすいよう、生活用品や装飾品のかたちをとっているものがほとんどで、
最もポピュラーな効果は、神霊に対する魅了の効果だ。
見習いが自発的に使ったり、欲を出した親類に持たされたりと、研修先の本丸を乗っ取るために使われたが
…戦争初期を生き残った連中が、それにどう対応したかはご想像にお任せする。
「だそうだぞ、主よ」
「あー、よく言われるやつだねー」
もちろん丙午も禁呪については知っていたらしい。
未だ半笑いが抜け切れていない顔で、納得したかのようにうなずいた。
「刀剣男士は人に非ず」
「……なんて?」
いま、なにか突拍子もなくとんでもないことが聞こえた気がするのだが。
刀剣男士はニンゲンじゃない、って。
丙午は微笑んだまま、静かに続ける。
「うちの本丸の基本姿勢です。
刀剣男士を道具として扱う。
それなのに男士がついてきてるから、
無理に従わせてると思われたんでしょう」