第1章 狐日和
「……これからオレ、もっと強くなります。……色んなものに打ち勝つために。……さくらさん」
「はい」
強い響きで名前を呼ばれて、思わず背筋を正す。ふざけたところがなかったとは言いきれないけど。
「オレに……付いてきてくれますか?」
えっ、なにこれ、プロポーズ?
「………………やだぴょーん」
「えぇ〜!?ちょ、えっ、軽くないっすかァ?!」
目を丸くして掠れた大声を上げる。城戸ちゃんのリアクションはいつ見ても面白いなあ。久しぶりの空気に私も楽しくなって、発泡酒に手を伸ばす。
「いや、だって、ヤクザやめるんだったら城戸ちゃん無職じゃん。せめて職に就いてから言ってよ、そういうのは」
「……分かりましたよ」
やっぱヤクザ戻ろうかなぁ、なんてブツブツ言っている城戸ちゃんにそっと近づいて、体の側面にピタリと背中をくっつける。
「……ヒモも無しね。私だって給料そんな高くないんだから」
「それだけはしませんから、安心してください」
なーにが「安心してください」だよ。これまで安心させてくれたことなんか全然なかったじゃない。