第2章 オムライス
さくらはひとしきり笑って落ち着いたのか、こちらを向き直ってオムライスを食べるのを再開した。
「……でも、作れて損は無いよね。ほら、こうやって彼女にごちそう出来る機会があってさ。あれ?ごちそうしてるのは私、私」
「はは……そうっすね。でもね、俺このオムライスあんまり好きじゃないんですよ」
「…………何で?」
ごくり、とさくらの喉が鳴る。
「……こんなに美味しいのに」
「……俺らみたいなのってね、子供の頃があんまりいい感じじゃなかった奴が多いっていうか。親父も多分に漏れずそんな感じで。俺らなんかよりもっと過酷なこともあって。その親父が唯一、子供の頃に母親が作ったごちそうだけが心の救いだったって」
「それが、オムライス」
「……そう。そういう話聞いちゃったら、食べる度しんみりしちゃうじゃないっすか」
さくらの顔がみるみる悲しそうになる。
しまった。
「ああいや、さくらさんは親父のこと知らないわけだし、何も悪くないっすよ」
「……城戸ちゃん」
「はい?」
さくらがじっとこっちを見る。
「明日も、オムライス作って」
「……え?」
「明日が無理なら次会う時でいいよ」
「いいですけど……」
「私、このオムライス、好き」
「さくらさん……」
「だから城戸ちゃんも、好きになるまで一緒に食べよ。勿体ないよ、こんな美味しいのに」
「……そうですね」
「あー、ほんと美味しいなあ、このオムライス。」
城戸は自分の手元を見下ろした。
かわいいキツネの絵が黄色い玉子の上にケチャップで描かれた、オムライス。
親父に言われて作らされる時は、その場の全員分でうっとおしいと思ったが、皆が美味いと言って食べてくれるようになった時は嬉しかった。
「……さくらさん」
「ん?」
「……ありがとうございます」
「……こっちこそ、ありがとうございます。おいしいよ、城戸ちゃん」
見つめ合い、どちらからともなく、微笑み合う。
城戸は、自分には彼女はもったいないと思いつつも、彼女とこうして時間を積み重ねたいと、感じていた。
終