第1章 狐日和
やめて欲しいと思ってるよ、ヤクザなんて。
どんな人に会うかわからない。どんな危険な目にあうか分からない。
でも、城戸ちゃんが求めているものの大きさは私にはわからないけど、それを目指している城戸ちゃんは好きなんだ。
素直で、バカっぽいけどバカじゃなくて、私が欲しい時に、優しさをくれる人。
ヤクザがどうこうというのは置いておいて、人としての、城戸ちゃんが好き。
だから、やめてなんて気安く言えない。
城戸ちゃんは私のこんな気持ち、分かっているのかな。
私と彼が出会ったのは私が会社の人との飲み会の帰り、路地裏で酔いつぶれた彼を拾ったところからだった。
最初は随分若いホームレスだなあなんて思ったけど、
「ぅおれぁねぇ、ごくどーなんですよぉ、かねむらこうぎょうってとこのねえ、わかしゅうでぇ」
はいはい、と思って聞いていたけど途中でいきなり泣き出した。
「ヘマしちまってさあ……おれもう新井の兄貴に顔向けできねえよぉ」
なんか可哀想になってきて、今思うとその時は同情心からだったけど、同時に「ヤクザの割になんかかわいいなこの人」なんて思い始めていた。
近くのコンビニでお水を買ってきてあげて飲ませると少し焦点が合うようになった目で、私を見つめて、
「おねえさん……ありがとうございますぅぅ」
まだ呂律が回ってない口でそう叫んで、一気に立ち上がろうとして、脚がくらりと曲がって、またゴミの山に倒れ込んだ。
救急車か、警察か……としばらく迷ってるうちにまたふらふら立ち上がろうとしたので、私は迷った末、ちょうどホテル街だったし近くのホテルに彼を連れ込んだ。身長差があるから肩を貸すわけにもいかず大変だったけど、何とか自力で歩いてくれた。
これだけ酔ってれば何も出来ないだろうし。
私自身もなんかほっとけない、って思っただけだから。
実際何も無かったけど。