第1章 狐日和
「オレねえ、でっかいことやりたいんすよ」
私の隣で呟く若い男。
茶色と黒のメッシュの少し長めの髪を後ろにラフに撫でつけたオールバック。
切れ長の目が好きで、それを伝えると柄にもなく照れる素振りを見せて、それがまたかわいかった。
よく懐く犬みたいな印象の彼。
これでも、極道。いわゆるヤクザ。
「おっきいことって、何?」
「……今はまだわかんないすけど」
私からの追求に、決まり悪そうに横を向く。
「……そうなんだ」
でっかいことなんかしなくていいから、私の隣にいてくれたらいいのに。
でもそういうのは、彼を困らせてしまう。
「そしたら……さくらさんのことも幸せにできるかな」
横を向いたまま、ポツリとつぶやく。
私の幸せ、でっかい事のついでなの?
なんて、意地悪なことを言って困らせようかと思ったけど、嬉しかったからやめた。
「そっか……出来るといいね、でっかい事」
こっちを振り向いた彼の笑顔は、輝くほどの笑顔。
ああもう、かわいいなあ。
なんでこの人、ヤクザなんかやってるんだろう。
「だから、さくらさんのこと好きなんです。……オレみたいなヤツの事でも、ちゃんと認めてくれて」
認める……か。