第100章 キミとボク
「翔くんをね、意識し始めた日をボクはハッキリと覚えてるよ」
ボクの言葉を聞いたキミが、チャームポイントでもある大きな前歯で下唇をちょこっと噛む。
そしてすぐに
「あはっ」
って小さく照れ笑いした。
嬉しそうなキミ。
そんな姿を見て、さっきは想像できなかったけど…
キミよりも照れてるのはボクのほう。
キミのふっくらした赤い唇が開く。
「俺もね…」
つぶらな瞳はとても綺麗で。
その先の言葉は、きっと…こうなんだ。
「“俺も、智くんを意識し始めた日をハッキリと覚えてるよ”って?」
「うん」
「ありがと」
「うん。俺のほうこそありがとう」
「あ、やべっ」
「もう行かないとっ」
急いで教室を出る。
ボクはキミを抱きしめる代わりに、手に持っていた楽譜を胸にあてた。