第97章 ビバ・青春
「僕は…リコーダーの練習してた」
目の前にきた大野くんの顔を見ることができなくて、俯き気味になってしまう。
「家で練習しないの?」
「えっと…僕、下手だから…近所迷惑になるし…」
自分で言ってて、ちょっと悲しい気持ちになってくる。
「ねぇ、櫻井くん」
大野くんが僕の頭を優しくポンポンしながら、顔を覗き込んできた。
澄んだ瞳。
一度目が合うと、その目はそらせなかった。
「上手だったよ?」
「…えっ?」
思わぬ言葉に、僕はビックリした。
すると大野くんはふにゃっとしながら
「さっき廊下まで聞こえてたけど、上手だなって思ったよ?」
再びそう言ってくれた。
「本当に?」
「うん。俺、嘘つかないし」
「そ、そうだよね。ごめんね」
「うん」
「ありがとう」
上手だったと大野くんが言ってくれて、すごく嬉しかった。
大野くんもリコーダーを手にし、少しの間だけど一緒に練習した。
大野くんは何度か音を外してたけど。
笑いあいながらしていたからか、リコーダーが楽しいと初めて思った。