第96章 ワインレッド~season~
どうして翔くんが赤ワインを飲んだ時だけ記憶を飛ばすのかはわからない。
だけど、おいらにとっては好都合だと思った。
「えっ。智くん、着替えを用意してくれたの?」
「うん」
「でも、悪いよ…」
「遠慮なんてしなくていいんだよ?ほら、おいらだけ着替えるのも気が引けるからさ。一緒にって思って」
「そう?それなら…ありがとう」
最近では翔くんもおいらも、おいらの家に着いたらすぐスエットに着替えるようになった。
少し前のことだけど、おいらの家がよっぽど落ち着くのか、翔くんは服をポイポイ脱いで下着姿になってしまうことがあった。
それはそれでドキドキだったし、本当はじっくり見たいけど凝視することなんてできないから、目のやり場に困ってしまっていた。
それに、スラックスのベルトがあるとおいら的にも不都合なことに気づいたし…
スエットみたいにウエストがゴムになっているほうが、スルッと脱がせやすいんじゃないかって。
脱がすのを前提に着替えを用意するなんてさ。
おいらもどうかしてるのかもしれない。
「智くんが選ぶ赤ワインって美味しいね」
「ふふっ。ありがと。翔くん、いま楽しい?」
「うん。楽しい」
ニコッて笑った翔くんがマグカップに口をつけると、間もなくして喉仏が動いた。
「んまっ」
翔くんが唇についたワインを舌で舐め取っていく。
その一連の動きをじっと見つめながら
「もっと一緒に楽しもうね」
おいらは小さく呟いた。