第96章 ワインレッド~season~
居酒屋にいる間、翔くんに変わった様子はみられなかった。
おいらとしては、そのほうが不思議だったけど…
やっぱり覚えていないのかもしれないと思うと、少しずつおいらの緊張も解れていった。
「本当に大丈夫だから」
「でも心配だから送らせて」
店を出た後そんなやり取りがあって。
結局、翔くんはおいらの家までついてきてくれた。
「少し上がってく?」
ずっとおいらのことを気にかけてくれてたから、そのまま帰すのは気がひけて、そう声をかけてみた。
「えっ?でも智くん、体調が…」
案の定、翔くんはビックリしたようだ。
「帰ってきてホッとしたらさ、ちょっと飲みたくなって。翔くんも飲み足りなかったんじゃない?」
おいらに合わせて、いつもよりだいぶ少なめだったし。
「まぁ、そうだけど…いいの?」
「うん。いいよ」
徐々に嬉しそうな表情になっていく翔くんは、本当に優しくて可愛い人だと思う。
だから…
他の人に渡したくないんだよ。
自宅では缶詰のつまみと、今日はビールのみにした。
おいらなりに推測したことがあって、それを確認したかったからだ。
「そうだよね。体調悪い時にちゃんぽんするのはよくないもんね」
うん、やっぱり翔くんは優しい。
おいらが少し元気になってきたことに安心したのか、翔くんは意外と飲むペースが早かった。
顔がほんのり赤くなっている。
「翔くん?」
「ん~ちょっとだけ…眠っていい?」
「もちろんいいよ」
トロントロンと眠そうにしていた翔くんの瞼が閉じていく。
間もなくしてスースーと寝息が聞こえてきた。
ゆっくり寝てていいからね、翔くん。