第96章 ワインレッド~season~
翔くんの厚めの唇は柔らかくて、最後に口にしたワインの味がした。
美味しい…。
おいらは翔くんの上唇と下唇を甘噛みし、ゆっくりとキスを味わった。
ビールに焼酎、そしてワイン。
滅多に酔うことのないおいらだけど、今日は酔ってしまっていたからか、少なからず自制が効かない状態だった。
「んっ…」
翔くんが息をもらすのが聞こえてくる。
起きた、のか?
ビクッとしながら翔くんを見ると、目は閉じたままだった。
ここでやめておけば良かったのかもしれない…
とは思わなかった。
そのままキスを続けてしまったのは、酔っていたせいだけではない。
「ん、ふぅ…」
再び耳にした翔くんの声に煽られ、おいらは唇を離すことができなかった。
好きだよ、翔くん。
翔くん、翔くん、翔くん…
翔…。
胸の奥がぎゅうっと締めつけられる。
髪を鋤いていた手を翔くんの頬にずらし、顔を引き寄せた時。
翔くんと目があった。
目を見開く翔くん。
「何してるの?」
そう声がしたと思った時には、おいらの体は翔くんに突き飛ばされていた。
翔くんは体を起こしながら、信じられないといった表情をしていて。
あぁ、もう友達でさえ居られなくなるんだなって…
おいらはサーッと血の気がひく感じがし、酔いが覚めていくようだった。
「今日はありがと…時間も時間だから帰るね」
おいらとは目を合わさずに、翔くんは帰り支度をする。
何度か翔くんの体がフラッとすることがあって心配になったけど、おいらは見守るしかなかった。
そうして慌てるように靴を履き、
「じゃあ…」
翔くんは俯いたまま出ていった。
おいら一人になった玄関。
翔くんがウチに来た時に、丁寧に揃えてくれたおいらの靴。
それが今、おいらと翔くんを象徴しているかのように、左右バラけていた。