第96章 ワインレッド~season~
「どうぞ」
「おじゃまします…」
内心ドキドキしながら翔くんを玄関に通すと、翔くんもソワソワしているようだった。
「どうしたの?緊張してるの?」
「うん、緊張してる」
「ふふっ」
おいらだって、翔くんと二人きりってことに胸が跳ねている。
「俺、ひとり暮らしの人の家って初めてだから」
そう言いながら翔くんは脱いだ靴を揃え、さりげなくおいらの靴も揃えてくれた。
その姿にキュンとする。
「へぇ…そうなんだ」
「うん。俺自身も家族と暮らしてるし、友人の家は執事やメイドさんがいる豪邸だし」
「うわっ。すげえな、その友人」
「うん。友人は気さくでいい奴なんだけどね」
おいらにはそんな豪邸に住んでる友人はいないけど、なんか厳格な父親がいて、長ーいテーブルで食事してるイメージがある。
「そっか。その翔くんの友達さ、気苦労はあるんだろうなぁ」
何気なく口から出た言葉だったんだけど…
それが翔くんの琴線に触れたみたいで。
「智くんは優しいね」
翔くんからの思いがけない言葉とキラキラした眼差しを向けられて、おいらはちょっと照れた。
さっきのことが嬉しかったのか、翔くんがいつも以上にニコニコしている。
まぁ、お酒が入ってるのもあるんだろうけど…
ご機嫌な翔くんに、当然おいらもニコニコになるわけで。
パクパク、ゴクゴクと箸やビールが進んでいく。
赤ワインはもう少し後にしようかな。
二人きりの空間。
おいらは、食べたり飲んだりする翔くんの姿を独り占めできる優越感に浸っていた。
「ふふっ。智くんの家で飲むと楽しいね」
なんてニコーッとされて。
本心では毎回おいらの家でもいいんだけどって思いながらも
「たまにはさ、こうして家で飲むのも有りだな」
って…特別感をもたせたくなった。