第96章 ワインレッド~season~
「いきたい」
翔くんが呟く。
「俺、いきたい」
「いきたい?」
「うん。いく」
“いきたい”
“いく”
翔くんの唇を見ながら耳に入ってきた言葉に、おいらの体が疼く。
もちろんそれは、おいらの家にっていうのはわかってはいる。
だけど翔くんの赤くて厚い色気のある唇がその言葉を言うと、おいらの脳内では違う意味での行為を想像させた。
「智くん?」
「あ、うん。じゃあ、いこうか…一緒に」
「ふふっ。うん。もちろん一緒に」
わざわざ“一緒に”なんて言わなくてもいいんだろうけど、おいらは敢えてそう付け加えた。
思っていた通り、翔くんも“一緒に”って言葉を言ってくれた。
だってさ…
“一緒に楽しめる”ってはじめに言ったの、翔くんだからね。
「おいら、これ好きなんだ」
「本当に?俺もこれ好き」
買い物カゴにお総菜やおつまみを入れていく。
おいらと翔くんは嗜好が似てるのもあって、二人でする買い物は楽しくてたまらなかった。
それからもう1つ。
お酒のコーナーでビールを見ていると、おいらはあるものに目が留まった。
「ねぇ。コレさ、飲んでみない?」
おいらも翔くんも、居酒屋ではビールしか飲まない。
だけど、翔くんの赤い唇が目に焼きついているせいなのか、燃えているような感情や疼きのせいなのか…
おいらは妙に『赤』に惹き付けられていた。
「赤ワイン?」
「うん。赤ワイン。おいら飲んだことないんだけどさ。なんか、興味が湧いて」
「赤ワインかぁ。俺も飲んだことない」
「どう?飲んでみる?」
「そうだね。飲んでみたい気がする」
お互いに初めての赤ワイン。
どれにしようかと二人で迷ったけど、口当たりがいいとアピールポイントが貼られていた1000円くらいのものを選んだ。