第96章 ワインレッド~season~
『どうしよう。臨時休業だって』
いつもの居酒屋さんに向かう途中、先に到着した翔くんからそう連絡が入った。
久しぶりに翔くんに会える日なのに、また次回に…なんてしたくない。
金曜日の夜だからなのか、どの店も空き待ちのお客さんで溢れている。
「あのさ、翔くん。おいらもうすぐ着きそうなんだけど、そこで待っててもらってもいい?」
『うん、いいよ。待ってる』
「ありがとう」
翔くんの元へと急ぐなか、おいらはある考えを頭にめぐらせていた。
「ごめんね、待たせちゃって」
「ううん。智くん、仕事お疲れ様」
「翔くんもお疲れ様」
翔くんの爽やかな笑顔を見るだけで、仕事の疲れがスーッと取れていく。
こんな風に翔くんと顔を見合いながら毎日言葉を交わせたら幸せだろうな。
「この後、どうする?どこもいっぱいだよね」
翔くんが辺りの店を見渡す。
そんな翔くんに、おいらは考えていたことを思いきって伝えてみることにした。
「良かったらさ…ウチで飲まない?」
「えっ」
「ひとり暮らしだから、気兼ねしなくてもいいし…」
おいらの言葉を聞いた翔くんがキョトンとしている。
家に誘うの初めてだし、びっくりさせちゃったかな。
「ウチさ、ここから30分くらいなんだ。近くにスーパーもあるから、色々買って行けるんだけど」
翔くんの表情をうかがいながら話してみた。
翔くんが唇に指を這わせている。
わりと早いうちにおいらは気づいたんだけど、これは何かを考えている時の翔くんの癖なんだ。
おいらの視線は自然と翔くんの唇にいく。
指の間から見える唇が色っぽい。
…柔らかそうなその赤い唇は、この後どんな言葉を発してくれるの?
すると、その唇が少しずつ開いていった。