第94章 愛と勇気とサクランボ
Oサイド
春休みに入り、櫻井から連絡がきたのは3月の終わりだった。
「うわぁ。先生の家からは、桜がよく見えますね」
「うん。駅からちょっと離れてるけど、この風景が気に入ってさ」
「いいなぁ、ここ」
「んふふ。ありがと」
「じゃあ…先生。あの日の続き…」
「わかった。準備できたら声かけて」
「はい」
狭い部屋にはソファーなんてなくて。
ベッドに向かう櫻井にドキドキしながら、俺はデッサンの準備を始めた。
服を脱ぐ音が止み、ギシッ…とベッドのスプリングが鳴る。
それから数秒して
「先生…お願いします…」
ちょっと緊張しているような声色がした。
ゆっくり振り向くと、おへその下から太ももの半分までだけをシーツで隠し、ベッドに横たわる櫻井の姿があった。
華奢なイメージがあったけど、意外と厚い胸板。
割れた腹筋。
スラッと伸びた足は、太ももがムチッとしている。
「なぁ、翔くん」
「はい」
「ちょっとだけ……触ってみてもいい?」
「ど、どう…ぞ。いくらでも触ってみてください」
「いくらでもって…」
俺は内心ドキドキしながら、櫻井がいるベッドの脇に腰を下ろした。