第94章 愛と勇気とサクランボ
Sサイド
大きな行事や生徒会での活動を終えた僕の高校生活は、秋の後半から受験へと切り替わった。
周囲がピリピリした雰囲気になる中、僕の心の拠り所は大野先生の存在だった。
二人で会う機会はなかったけれど、先生の姿を見つけては元気になれた。
そうして…大学に合格して数日後、タイミングよく階段で先生と出くわした。
一言二言会話しただけだったけど、大野先生と話せたことが嬉しくて胸が高鳴った。
今日から3月、明日は卒業式。
三年生は他の学年より先に下校し、在校生と教師らで卒業式の準備に取りかかる。
僕は新生徒会役員たちからアドバイスを求められていたから、すぐには下校せず暫く生徒会室で過ごした。
…大野先生に会いたい。
帰りがけに美術室のドアをノックした。
もしいなかったら潔く帰ろう…
そう思っていた僕を、美術室にいた大野先生が迎え入れてくれた。
あの日以来、2回目の美術室。
大野先生はあの時の石膏像をデッサンするところだったらしい。
むむっ…
近くで見るそれは綺麗さに加え、斜め下への視線がどこか儚げで。
…やっぱり嫉妬した。
「僕を描いてもらえませんか?」
意を決して大野先生に伝えた。
僕はこの数ヶ月、あの石膏像に負けないくらいのボディーになろうと、密かに筋トレにも取り組んでいた。
大野先生はびっくりした様子で僕を見ている。
その視線を感じながら、僕はゆっくりと制服のボタンを外していった。
上着を脱ぎ、Yシャツのボタンを外し終える。
両肩を出しかかった所で、それまでじっと僕を見ていた先生が
「待って。そのまま」
と言って僕の目の前に来た。
ドキドキが止まらなくて、呼吸する度に肩が大きく動く。
「もう少しシャツを下げてみて」
「は、はい」
先生も真剣に向き合ってくれてるのが嬉しかった。
ちょうど上腕の半分辺り…乳首くらいの位置までYシャツを下げると、
「うん、そこでキープしてて」
大野先生が鉛筆とスケッチブックを手にする。
服がちょっとはだけている姿は意外と恥ずかしい。
だけど、そんな僕の姿が先生の瞳にうつっているのが嬉しくて…僕自身興奮していた。