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キミとボク【気象系BL】

第94章 愛と勇気とサクランボ


Oサイド

秋から冬が過ぎ、今日から3月…季節は春になった。

桜はまだ開花してはいないけど、櫻井には花が咲いた。

櫻井は明日この学校を卒業して、4月からは大学生になる。

アンケート用紙を渡したあの日から、学校内は櫻井を含め三年生の生徒と教師はピリピリした雰囲気が漂っていた。

「大野先生。僕、合格しました」

櫻井からそう報告を受けたのは、二年生の授業後に職員室に戻る途中の階段だった。

櫻井と話すのは、久しぶりだったと思う。



体育館はシートや幕で覆われ、椅子の列たちが式場の装いを醸し出している。

いよいよ、だな。

椅子を並び終えた俺は無性にデッサンがしたくなり、美術室に向かった。

俺専用の画材を用意し、石膏像と向き合っていると、ドアをノックする音がした。



美術室のドアを開けると、櫻井が立っていた。

「えっ、どうして…三年生はもう帰ったんじゃ…」

「卒業する前に、大野先生に会いたくなって…」

その言葉に胸がしめつけられる。

俺は俯き加減で話す櫻井の背中に手を当てて、美術室の中に促した。



「ここに入るの、2回目です」

「ふふっ。そうだね」

「大野先生、何か取り組んでたんですか?」

「いや、これからしようと思ってたとこ」

俺はさっき用意した画材の中から、鉛筆を取り出した。

「絵、ですか?」

「うん、そう。デッサンしようかなって。」

俺が描こうとしていた石膏像に視線を向けると、櫻井もチラッとそれを見た。

何となく櫻井が頬を膨らませてるように見える。

「先生は、随分とこの石膏像が好きなんですね」

「…は?」

「だって…前にも大切そうにしてるとこ見たから…」

それは初めて櫻井が美術室に来た日のこと。

わりと朝から陽射しが強かったから、向きを変えたんだっけ。



「大野先生」

「ん?」

「僕を描いてもらえませんか?」

思いもしなかった言葉。

だけど、櫻井の表情から真剣さが伝わってくる。

櫻井はふぅ…と呼吸をし、ゆっくりと制服のボタンに手をかけた。






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