第94章 愛と勇気とサクランボ
Oサイド
「大野先生に食べられました」
櫻井が二宮先生にそう話すからびっくりした。
俺、櫻井のこと食べたか?
いや、まだ食べてない…よな。
俺は否定したけど、それはスルーされた。
「フワッとしてからツンツンと」って、櫻井が食べられた時の状況を二宮先生に話している。
内容からして、さっきのキスのことを言ってるのがわかった。
そっか…あのキスの仕方は、櫻井的には食べられたって気持ちだったのか。
もう二宮先生に話してしまったものはしょうがないし、俺はてっきりそこで話が終わったと思った。
なのにだ。
「触れるだけかと思ってたんですけど…びっくりでした」ってさぁ…。
櫻井…俺、もうめちゃめちゃ恥ずかしいんだけどな。
二宮先生は満足そうにニヤニヤしながら、顔を赤くしている俺と櫻井のことを『サクランボ』と言い、更に櫻井については別の意味でチェ…なんて言葉を濁して去っていった。
俺も薄々思ってたんだ、櫻井はその…チェリーかなぁって。
その櫻井はというと、可愛くキョトンとしている。
おそらく頭の中は、別の意味でチェ…ってなに?ってぐるぐるしてるんだろうな。
「俺たちも行こうか」
「は、はい」
声をかけられてびっくりしたのか、櫻井がファイルを落としそうなる。
俺は咄嗟に、櫻井ごと腕の中に納めた。
体を離さないといけないのに…
そう思えば思うほど、腕を解くことができない。
櫻井がおっきな瞳で俺をじっと見ている。
「急に声かけてごめん」
「いえ…そのおかげでこうして抱きしめてもらえましたから…」
「なんか、嬉しそうだな」
「はい、もちろん。大野先生も嬉しい?」
櫻井がちょっと照れくさそうにしながら言うから…俺もまたあの言葉を言ってみたくなった。
「あぁ、嬉しいよ………翔くん」
「しょ、翔くんって…久しぶりに呼んでくれた…」
ファイルを持っていないほうの手で、櫻井が俺のジャケットを握るのが見えて。
その可愛らしい姿に、サクランボはまだ食べずにとっておきたいと思った。