第94章 愛と勇気とサクランボ
Sサイド
二宮先生から、職員室に来たときよりも可愛くなってると言われ、僕は大野先生とのキスを思い出してしまった。
それだけでもドキマギしてるのに
「大野先生と何かあった?」
って、二宮先生は更に聞いてきた。
きっと僕が答えるまでは、こんな風に質問は続くのだろう。
いつまでもはぐらかすことはできないなと思った僕は
「えっと…」
と言葉を発した。
「ん?なになに?」
二宮先生はやっぱり楽しそうにしていて。
つい話をしたくなるような雰囲気に持ち込まれていく。
「お、大野先生に…」
「大野先生に?」
「食べられました」
「えっ…」
「た、た、食べられたの?」
二宮先生は目をキョロキョロさせ、座ったまま前のめりになった。
「ここで?」
「はい」
「いや、いや、食べてないし」
「櫻井は食べられたって言ってますよ?ね?」
「はい…」
「いや、食べては…」
否定する大野先生を無視して、二宮先生が僕に質問を続ける。
「どんな風に食べられた?」
「えっと…フワッときてからツンツンと…」
「ツンツン?」
「はい。まるで食べられてるような気持ちになりました」
横をチラッと見ると、大野先生は頬を紅潮させて俯いていた。
「…やっぱり言っちゃダメでしたよね」
僕がそう言うと、大野先生は首を左右に振った。
二宮先生のほうからは、くくくっと笑う声が聞こえる。
「食べられたって…唇のことね」
「はい。触れるだけかと思ってたんですけど…びっくりでした」
「櫻井~もうやめてくれ~」
「そうですよね、ごめんなさい。二人の思い出なのに」
僕も急に恥ずかしくなって、顔が熱い。
「そろそろここを出ますか。ねっ?お二人さん」
二宮先生が椅子から立ち上がると、大野先生は美術室のドアを開けた。
「どーもすみませんねぇ」
椅子を壁際に置いて、二宮先生がドアの前に来た。
「ははっ。二人並んで顔を真っ赤にして。まるでサクランボみたい」
「えっ」
「あ、櫻井は違う意味でもチェ…おっと危ない。これ以上は言えない言えない。じゃあ」
二宮先生は一礼してから美術室を出ていった。
…違う意味でもチェ?ってなに?