第94章 愛と勇気とサクランボ
Oサイド
あとで職員室に行くのだから、わざわざ美術室まで届けてくれなくても良かったのに。
アンケートの追加分を受け取り、心の中でそう思っていると、二宮先生は隙をついて俺とドアの間から頭をくぐらせ、美術室の中を覗きこんだ。
「櫻井、まだここにいます?」
なんて言って。
本当にこの人は侮れない。
櫻井もあっという間に見つかってしまったし…。
仕方なく俺は、二宮先生にも美術室に入ってもらうことにした。
「お邪魔しまーす」
って可愛らしく言われても、あまり歓迎はしてないですけど…。
美術室の中に入った二宮先生は躊躇する様子もなく、さっきまで俺が座っていた椅子に腰を下ろした。
…何となく近くには行きたくないな。
イヤな予感がした俺はドアを閉めた後も、ドア近くから動かないでいた。
隅っこにいた櫻井もトコトコッとやって来て、俺の横に立った。
すかさず二宮先生は櫻井に声をかけ、まるでアイドルのような笑顔をみせる。
相手が櫻井じゃなかったら、そのスマイルはキャーキャーと魅了させてると思う。
予想通り、櫻井はそんな素振りなく会釈していた。
んふふ。さすが櫻井。
俺のほうがいいもんな。
つい顔がにやけてしまいそうになる。
二宮先生がチラッと俺を見るから、何か言われるのかと構えた。
だけど…
「ふふっ。櫻井、何かいいことでもあったの?」
二宮先生が話を振ったのは俺ではなく櫻井だった。
更に二宮先生は、職員室に来たときよりも櫻井が可愛くなってると言った。
ドキッ…
身に覚えがあるだけに、俺と櫻井はお互いの顔を見合った。
「大野先生と何かあった?」
なおも、二宮先生は話を続けていく。
櫻井の性格的に、いつまでもはぐらかすことはできないかも…。
そう思い始めたのとほぼ同時に
「えっと…」
櫻井が口を開いた。