第94章 愛と勇気とサクランボ
Oサイド
アンケート用紙を入れたファイルを取っていると、櫻井に手が綺麗だと言われた。
時々、生徒たちに絵の具が落ちきれてないって指摘されることがあるから、てっきり櫻井も汚れのことを言ってるんだと思った。
でも、それは違っていた。
櫻井は俺の手について力説し、しまいには『好きです』って…。
いや、もちろんそれが手のことだってわかってはいる。
だけど気になってる相手からそんなこと言われたら…正直なところ嬉しくて堪らなかった。
「そんなに俺の手が好きならさ、触ってみてもいいよ」
そう言いながら櫻井の手に触れた。
普段の俺だったら教師と生徒ってことがひっかかって、こんな行動はしなかったと思う。
俺は…さっきの櫻井の言葉で、舞い上がっているのかもしれない。
「触っていいですか?」
「あ、あぁ、いいよ」
…って、あのぉ…櫻井?
すでに俺の手、両手でニギニギ握ってるよね…。
「へぇ…すごい…」
……何が?
「うわぁ、ここ…」
……な、何が?
「やっぱり…」
……な、な、何?
櫻井は呟きながら、俺の指やら手のひらを触っていく。
……その触り方、何ていうか…。
キュッと指先を握ったり、指をスーッと撫でてきたり…
ゴクッ。
手を触られてるだけなのに…呟きと相まって他の部分が疼いてくるなんて。
「あ、あのさ、櫻井」
「はい?」
「もう、満足した…かな」
ダメだ…言葉も途切れ途切れになってくる…。
「先生?大丈夫ですか?」
下を向いていた櫻井が、顔を上げた。
グッと近づく距離…
お互いの顔があまりにも近くなっていて胸がバクバクした。