第94章 愛と勇気とサクランボ
Sサイド
うーん…
どうやって大野先生と接触しようかな。
第1関門は職員室だ。
入学当初は先生の名前を伝えればすんだのに、2年の途中から先生の名前だけじゃなく用件も伝えないといけなくなった。
噂によると、大野先生や二宮先生のように若くてイケメンな先生を告白目的で呼び出す生徒があとをたたなかったから、らしい。
担任でもない大野先生をどう呼び出せばいいのか…
結局いい案が見つからないまま、僕は学校に向かった。
「あっ、外し忘れてる…」
3階の階段を上がりきる手前の壁。
そこに1枚だけ、文化祭のポスターが残っていた。
そうだ、二宮先生のとこに行かなきゃ。
文化祭のアンケート集計が、僕にとって生徒会での最後の仕事になる。
僕は体の向きを変え、教室のある4階ではなくて職員室のある2階へ降りた。
職員室で、用件と先生の名前を告げる。
ドア前で待つこと数秒、二宮先生が廊下に出てきてくれた。
「櫻井、おはよう」
「おはようございます」
「そうそう、アンケート用紙ね。あれ、大野先生が持ってるんだよね…」
「…えっ?」
“大野先生”
予期せぬ名前が出てきて、僕はかなり動揺した。
「一昨日さ、アンケート用紙渡そうと思って生徒会室に行ったんだけどさ」
あっ、思い出した…
あの時たしか、二宮先生とすれ違ったっけ。
「そこにいたのは大野先生だけだったから、櫻井には今日渡せばいいやって思ったんだけど…」
「帰ってしまってごめんなさい」
「いや、いいのよ。謝らなくてもね。そしたら“俺から櫻井に渡しておきます”って言うのよ、大野先生がね」
「大野先生が…」
「うん、そう。あの人、学校着いたらすぐ美術室の空気の入れかえするみたい。…ってまぁ、そういうことだからさ。よろしく頼むね~」
「あ、ありがとうございます」
僕は咄嗟にお辞儀をした。
二宮先生は僕の肩をポンポンと2回叩いたあと、片手をヒラヒラさせながら職員室に戻っていった。
まさかの展開にまだビックリしてるけど…
誰かに聞かれても、大野先生と接触する明確な理由ができたことは素直に嬉しかった。