第94章 愛と勇気とサクランボ
Sサイド
「翔ちゃん…」
「ん?」
「俺、翔ちゃんのこと応援してるから」
「雅紀…」
「俺も。友達やめたりなんてしないからさ」
「潤…」
「翔ちゃんの幸せが俺たちの幸せだもんね」
「…ありがとう」
雅紀と潤の言葉が、僕を後押ししてくれる。
「うぉ~っ!諦めないからな~っ!」
「ちょ、ちょっと、翔さん、声デカすぎだって」
「きゃはははは。それでこそ翔ちゃんだ」
帰宅した僕は着替えもせずにベッドへダイブした。
「大野先生…」
想い人の名前を呟きながら、枕に顔を埋める。
好きになった相手が”先生”じゃなかったら、こんなに苦しくならずにいられたのかな。
大野先生は昨年、美術担当で赴任してきた。
その美術の授業は週に2回あった。
決して上手いとはいえない僕の作品を、大野先生は“個性があっていい”と言ってくれた。
はじめは優しい先生だなって印象だったけど…
いつの間にか「櫻井」から「翔くん」って呼び方が変わっていることに気づいた。
そうなると、やっぱり意識してしまうわけで…。
先生の声とか仕草とか姿を目で追っていくうちに、いつしか僕は…大野先生のことを好きになっていた。
なのに…
今年のゴールデンウィーク明け辺りから“翔くん”ではなく“櫻井”って再び呼ばれるようになっていた。
授業中は敢えて僕を見ないようにしてる感じがするし、あまり関わらないようにされてるのかなって。
だけど、今日みたいにフラッと目の前に現れたりすることもあるんだ。
振り回されて意味がわからないけど…
初恋は実らないっていわれたりしてるけど…
僕は大野先生が好き。
だから、ちゃんと話をしたい。