第94章 愛と勇気とサクランボ
Oサイド
櫻井が出ていったあとも、暫く窓の外を眺めていた。
「なーに黄昏てんのよ」
同僚の二宮先生の声がする。
何でも見透かしているような所がちょっと怖いけど、いい人ではあるんだ。
「別に黄昏てなんかないし」
「ふーん、自覚なしですか。俺はさっきそこで白うさぎちゃんとすれ違ったんで、てっきりそれと関係があるのかと思ったんですけどね」
「…白うさぎ?」
俺は二宮先生のほうに振り向いた。
二宮先生は眉をひそめ、ため息をつく。
「そう。うちの制服を着た白うさぎちゃん」
「それって…櫻井のこと…?」
「やっぱりアンタにはわかるんだ…その白うさぎちゃんこと櫻井ですけどね、顔は伏せてたけど目を赤くさせてましたよ、可愛そうに。アンタ、何したの?」
何って…。
「何も」
「ふーん」
二宮先生は、さっき櫻井が消していったホワイトボードに視線を向けた。
「櫻井さ、夏休み前からすげえ頑張ってたんだよ」
うん、知ってる。
隠れて見てたし、応援してたし。
「だからさ…生徒会担当教員として、櫻井にちょっとしたご褒美をやったんですけどね」
「ご褒美?」
「そっ、ご褒美。そこからさ、よく見えるでしょ?受付だったとこ」
「櫻井、ここでお昼とってたって」
「だって、その時間に櫻井に休憩とらせたのも、そのテーブルを使うように言ったのも、俺だし」
「えっ?二宮先生が?」
「だから~。言ったでしょ、ご褒美やったって。本人には内緒にしてましたけど、櫻井が休憩時間中に受付の仕事をしてるアンタを眺められる特等席。」
「どうしてそんなこと…」
「そんなの、アンタが一番わかってるでしょうに…。櫻井があまりにも切なそうで、見ていられなかったからですよ」
二宮先生がさっきよりも大きなため息をついた。