第94章 愛と勇気とサクランボ
Sサイド
夏休み明けに、体育祭と文化祭が立て続けにあった。
クラスのことはもちろん、生徒会での役割もあってかなり大変だったけど、充実した日々を送っていたと思う。
昨日終わった文化祭。
今日は午前中のみ登校で、全校生徒で文化祭の後片付けをした。
明日は振り替えで休校だ。
チャイムが鳴り、皆が帰っていく。
足取りが弾んでいるように見えるのは、達成感と束の間の休息があるからなのだろう。
僕たち3年生は、いよいよ受験シーズン到来となる。
「皆、お疲れ様」
廊下を歩きながら僕は、校門を出ていく後ろ姿たちにそう呟き、生徒会室に向かった。
生徒会室の正面にあるホワイトボードには、文化祭のタイムスケジュールやら割り振りがビッシリ書いてある。
自分で書いたそれを消すために、ここに来たのだけれど…
13時からの受付担当者名が目から離れない。
「先生…」
その人のことを思い浮かべると淋しさを感じてしまって、ホワイトボードの文字を消すことができずにいた。
「ん?」
前のドアに何か気配を感じ、そっちに視線を向けた。
えっ、何で?
今しがた僕の頭の中を支配していた人がそこにいる。
びっくりした僕は目をそらすことすらできない。
ガラガラっとドアが開き、先生が入ってくる。
「お疲れ様、櫻井くん」
ねぇ…
どうして“櫻井くん”って呼ぶの?
一瞬ムッとなったけど、先生と話せるのは嬉しいから…
「お疲れ様です。大野先生」
僕はニッコリと挨拶を返した。