第93章 またこの場所で
Sサイド
親友さんの手が僕の頬に触れた時は、キュッと胸が締め付けられた。
僕を見る眼差しがあったかくて…
きっと、会えないままでいたおじいさんに思いを馳せてたんだろうなって。
智くんに感じるドキドキとは違うのに、“ストップ”なんて、アタフタする智くんにはキュンとした。
そんな智くんは、似顔絵の裏に書かれている文字を見つけたらしく、
「“さとし・しょう”?」
って言ってるのが聞こえた。
「僕にも見せて?」
3人でその文字を眺めてみる。
「“しょう”じゃなくて“しょお”って書いてない?」
「あ、ホントだ。“しょお”だ」
「どうして“しょお”なんだろう」
「そうだね…えっ、じいちゃん?」
「おじいさん?」
親友さんを見ると、唇に指をあて、瞳を潤ませていた。
「じいちゃん?どうした?」
「……しょ、」
智くんと目で合図を送りあい、親友さんの言葉を待つことにした。
親友さんは何か噛みしめるように小さく頷き始めた。
そして数秒閉じた瞼を、ゆっくり開く。
「しょ、く…しょお、くん…」
小さな声だけど“しょおくん”って言ってるのが聞こえた。
親友さんが呼んだ“しょおくん”が僕ではないことはわかる。
だとしたら、似顔絵の裏に書かれている“さとし”も智くんのことではなくて。
おじいさんが書き残したのは、いま僕たちの目の前にいる親友の“さとしさん”と“しょおくん”って呼ばれてたおじいさんのことだったんだ。
「しょおくん…ずっと呼んであげられなくてごめん」
親友さんの目から一筋の涙が流れる。
「きっと喜んでると思いますよ」
「じっちゃんのことだから、頬を赤く染めてるかも」
そんな僕たちの言葉に親友さんは
「ありがとう」
って、微笑んでくれた。