第93章 またこの場所で
Sサイド
空を見上げながら呟くその人の横顔は、綺麗で儚かった。
「向こうで話しませんか?」
いつになく落ち着いた声で、智くんが縁側へ促した。
「じっちゃんとはよく、この縁側で過ごしてたんです」
「へぇ…随分と年の差がある友達がいたんだな」
「あっ、そう言われてみると…」
「君たちと笑いあえてたんだね」
「はい」
“年の差がある友達”
おじいさんと一緒に過ごした日々が次から次へ浮かんできて、胸にこみ上げてくるものがあった。
猫背の親友さんは若い頃に頭にケガをし、その時から記憶が曖昧になったと話してくれた。
「見覚えのある男の子の顔は出てくるのに、どこで何をしていたのかがずっとわからなくてね」
「そうだったんですね」
「ただ…」
「ただ…?」
「最近になって、昔住んでた所の風景とかが浮かぶようになって」
「はい…」
「あとね、納戸の整理をしていたら、こんなものが出てきて…」
そう言い、バッグの中から布に包まれたプレートを取り出した。
割れていて半分だけのそれには、消えつつあるけどひまわりの絵が描かれていた。
「自分で描いたものだと思うんだ。もう半分も探したんだけど見当たらなかったんだよね…」
僕たちもおじいさん家でそれを見たことはない。
「それで…1週間くらい前だったかな。ひまわり畑でその子とよく遊んでたのを思い出して」
「1週間…」
「1週間くらい前って…じっちゃんが…」
言葉をつまらせてしまった智くんの頭を、親友さんが優しくポンポンする。
「不思議なんだけどね。アイツ、よく迷ってたから…探しにいかなきゃって」
「それで、ここに?」
「うん、そう。やっと見つけに来れたんだけどね」
みんなが視線を落としていると、ひまわりの根元辺りがキラキラと光った。
「何だろう…」
何年もここで過ごす時間があったけど、こんなことは初めてで。
僕はちょっと動揺した。