第93章 またこの場所で
Oサイド
あれから1週間ほど過ぎて。
じっちゃん家は、貸家にする検討もしているようだった。
じっちゃんの妹さんは離れた所に住んでるから、掃除や庭の手入れは俺たちがさせてもらうことにした。
ただ、大学を卒業するまでの間だけになるかもしれないけど…。
そんなある日。
じっちゃん家に先に行っている翔くんから着信があった。
『智くんっ。ね、ね、猫っ。猫がいるっ』
翔くんの声はひどく慌てた様子で。
俺は予定よりも早めにじっちゃん家に向かうことにした。
じっちゃん家が見える辺りまで来ると、そのすぐ近くで俺を手招きする翔くんに遭遇した。
「あれっ?翔くん、何で外にいるの?それに、猫、嫌いだったっけ?」
「えっ、何で?」
「だって…さっき翔くんが電話で言ってたじゃん。“猫がいる”ってすごく慌ててたから」
「あっ、たぶん言い間違いかな…」
「言い間違い?」
「うん。猫みたいな人がいるって言いたかったの。ちょっとびっくりして」
「そっか…で、その人、今どこにいるの?」
「えっとね…」
翔くんが足音を立てないようになのか、そぉっと歩き始めたから、俺も後に続いた。
「あそこだよ」
翔くんの視線の先に目を向けると、じっちゃん家の門の前を行き来している小柄な人がいた。
たしかに猫背だ。
「まさか…」
心臓がバクバクしている。
翔くんがびっくりして慌ててたのも、今ならよくわかる。
「智くんも、そう思う?」
「うん」
俺は翔くんの言葉に頷き、翔くんの手を握った。