第93章 またこの場所で
Oサイド
翔くんの手の指が、俺のそれと絡んでいく。
指先から伝わる緊張感。
もちろん俺だって緊張してるのだけど。
翔くんがもう片方の手をベッドについてお尻の位置をずらす。
ギシッ…
ベッドのスプリングが鳴った。
その音が生々しくて、心臓が跳ねる。
密着する、翔くんと俺の太腿。
揺らいでいる翔くんのおっきな瞳。
「智くん」
俺の名前を呼んだ翔くんが、ゆっくりと目を閉じた。
―――あの時。
じっちゃんを見送った後、じっちゃんと初めて会話したあの門を見て、張りつめていたものが弾けるように涙が溢れ出した。
そんな俺を見て、翔くんはしょうがないなぁって肩を抱いてくれた。
何だよ、さっきまでと逆じゃんか…
俺、カッコわる…。
ちょっと情けなく思いながらも、俺はそのあったかい温もりに甘えさせてもらった。
家に着いても俺を気遣う翔くん。
これ以上心配をかけさせたくなくて、大丈夫だと伝えた。
翔くんだって胸を痛めてるはずだから。
だけど…
またね、って背中を向けた翔くんを見て、急に心がざわつき始めた。
翔くんに対する15年分の想いが溢れだす。
じっちゃん家に通う度に、翔くんとも過ごせるのが嬉しかった。
いつも一緒に。
だけど、当たり前の日々がそうではないことも知った。
こんな時にって思われるかもしれないけど…
翔くんと離れたくなかった。
それは淋しいからとかではなくて…
好きだからなんだと確信した。
「待って」
俺は咄嗟に翔くんの腕を掴んだ。
ガチャッと翔くんが鍵を閉める音がして。
ちゃんと気持ちを伝えようと思った―――
翔くんの顔に、俺の顔を近づけていく。
ぷっくりしている翔くんの唇と俺の唇がちゅっ。と触れた。
絡めた指にキュッと力が入り、ベッドも小さくギシッと鳴った。