第16章 眠りのキミ
いつも通りの行動に安心する俺は、他の列に並ぼうという気にはあまりならない。
今日も同じ列に並んで電車に乗り込んだら、運よく後ろと右横からの流れであれよあれよという間に、あの人をすぐ斜め前から見下ろせる位置に来てしまった。
ここまで接近したのは初めてだ。
またとないこの機会に、まじまじとその人を見る。
深く被ったキャップで顔はやっぱりよく見えない。
着ているスーツはシワがなくビシッとしていて、靴もピカピカに磨かれている。
身につけるものを手入れしてるなんて、きちんとしてる人なんだな…なぜか好印象をもった。
しばらくすると、駅に到着するアナウンスが流れた。
降りるには反対側のドアに行かないといけない。
電車のブレーキがかかる。
その場で体の向きを変えていると、スッと横に来た人の気配を感じた。
右隣に立つ足元には、ピカピカに磨かれているあの靴が見えた。
俺の隣にあの人がいる…。
顔を見ようとしたのと同時に電車のドアが開き、人の流れではぐれてしまった。
あとちょっとだったのに…。
残念な気持ちで階段を降りていると、改札機手前にあるトイレに向かうキャップの人が見えた。
俺もトイレのほうに急いだ。