第93章 またこの場所で
Sサイド
おじいさんを見送った後も、暫く涙が止まらなかった。
心にポッカリ穴が開くっていうのを感じたのは初めてかもしれない。
「翔くん、1人で帰れるか?」
智くんが心配そうに僕の顔を見る。
ドキッ…とした。
いつもは何事にも動じない智くんの目が、真っ赤になっていたから。
途端に僕は、自分のことよりも智くんのことが気になった。
「智くんこそ…1人で帰れる?」
「ん…どうかな…わかんねぇや」
智くんはおじいさん家の門を見つめた後、手の甲で目を隠し唇を噛みしめた。
「しょうがないなぁ。智くん家まで一緒に行ってあげるよ」
今度は僕が智くんの肩を抱き寄せながら歩き始めた。
「う、うぅ…っ」
隣にいる温もりが、小さく震えていた。
智くんのご両親は旅行中で不在だった。
「智くん、大丈夫?」
「ん、大丈夫。ありがとな、翔くん」
「うん…じゃあ、またね」
玄関先で智くんに告げ、背を向けた。
ドアノブを回し、一歩踏み出したところで
「待って」
智くんが僕の腕を掴んだ。