第93章 またこの場所で
Oサイド
それからも、じっちゃんがその写真を手に取り、愛しげに眺めている姿を何度となく見た。
「あなたは若いままなんだから…」
シワ1つない…ってちょっと拗ねたように、じっちゃんがそう呟く時もあった。
「何かさ。おじいさんって、可愛らしい人だよね」
肩を竦めながら言う翔くんだって、じっちゃんみたいにハンサムで可愛らしいと思う。
じっちゃん家にいる時はいつも3人で縁側に座り、ひまわりを見たり、本を読んだり絵を描いたり、じっちゃんの話を聞いたりしていた。
「じっちゃん、これ…」
俺は親友さんの顔を描いて、じっちゃんに渡した。
じっちゃんはその絵をじっと見ている。
「じっちゃん…シワ、足してもいいよ」
「えっ…?」
「“あなたはシワ1つない”って言ってたでしょ?」
「…そんなこと言ってた?」
「うん。言ってた、言ってた。“あなたは若いまま”とかも、ね」
「じゃあ…今までの分も足そうかな」
俺が鉛筆で描いた似顔絵に、同じように鉛筆でシワを足していくじっちゃん。
「あの…じっちゃん?これ、シワ…?」
だってね、この方向にシワってなかなか…。
「えっ、おかしい?」
「僕も絵に関しては人のこと言えないけど……猫の髭っぽい」
あっ。
こういう時、翔くんは素直に言っちゃうんだもんな。
「猫かぁ。あの人、猫背だったから…確かに猫っぽいかも」
猫の髭っぽいって話が、いつの間にか猫っぽい人って話になってるし。
だけど、じっちゃんがゲラゲラ笑いだしたから…
俺たちもつられて笑ったんだ。
毎年1本ずつ増えていった親友さんのシワは、結局何本足されたんだろう。
ついこの前じっちゃんに会った時、
「持ってていいよ」
そう言いながら帰り際にじっちゃんから渡されたその絵。
隣で泣いている翔くんの肩を抱き寄せながら、俺は胸ポケットのそれに手をあてて、じっちゃんを見送った。