第93章 またこの場所で
Oサイド
家の近所に、毎年ひまわりが咲く家があった。
俺がまだ小さかった頃、ひまわり見たさに門の隙間からよくその家の庭を覗いていた。
「ひまわりは好き?」
そんなある日、ハンサムなじっちゃんが門から出て来て俺に声をかけた。
「あの…えっと…」
ビックリした俺は走って逃げようかと頭をよぎる。
「いつも見にきてくれてるよね。庭に入ってもっと近くで見てもらってもいいんだけど、ご両親が心配するといけないから」
庭を覗いてたことを怒られるどころか、おっきな目を細めながら優しくそう言ってくれた。
「ねぇねぇ、じっちゃん。もしもね、母ちゃんがいいよって言ったらさ。その時は友達も連れてきていい?」
「もちろんいいよ」
俺の目線に合わせてくれるハンサムなじっちゃんは目がおっきくって歯並びのいい前歯もおっきくって。
それが俺の友達の翔くんと似てるなぁって思った。
その日をきっかけに、俺は必ず行き先と誰と一緒に行動するかを家族に告げてから出かけるようになったんだ。
背よりもうんと高かったひまわり。
年月が経つにつれて、そのひまわりを見下ろすくらいに成長した俺と翔くん。
じっちゃんはハンサムなところはそのままに、シワが少しずつ増えていった。
いつもじっちゃんの胸ポケットに大切そうに入っていたのは、1枚の写真。
そこに写っているのはじっちゃんではなく、垂れがちの目で優しそうな人。
その人は誰なのか…
俺たちから聞いてもいいのか迷っていると
「この人はね。ひまわり畑に迷い込んだ僕を助けてくれた親友だよ」
その写真に写っている人の頬辺りを指で優しく撫でながら、じっちゃんはそう話してくれた。
四隅が擦り切れている写真。
ずっとずっと何十年もずっと、じっちゃんとともに時を過ごしてきたんだと思った。
翔くんはポロポロと涙を流していて。
俺の頬にもツーッと涙が伝っていた。