第93章 またこの場所で
Sサイド
“…ねぇ、知ってる?
昭和から平成になって…来年にはね、また年号が変わるんだよ。
僕はね、あなたもどこかできっと…僕と同じ空を眺めてるって思ってるんだ。”
――それは近所に住むハンサムなおじいさんが、僕たちと最後に会った時に呟いた言葉だった。
僕と幼馴染みの智くんは小さな頃から、そのおじいさん家の縁側で、おじいさんの話を聞くのが大好きだった。
庭には毎年ひまわりが咲いていて。
それがおじいさんと出会ったきっかけだった。
目がおっきくて、唇が厚くて。
みんなからはよく、僕とそのおじいさんの顔が似てるって言われていた。
母さんに聞いてみたけど、親戚ではないと思う…って。
独身だったおじいさんには妹さんと弟さんがいて、たまに様子を見に来ているようだった。
「兄の話をずっと聞かされて、つまらないでしょ。ごめんなさいね」
妹さんは僕たちにそう言ってたけど、そんな事は全くなかった。
たしかに、ひまわり畑に迷い込んだ時に親友が助けてくれたって話は何度も聞いたけど…イヤじゃなかった。
どうやらその親友さんは、垂れがちな目や雰囲気が智くんと似てるらしくて。
おじいさんがすごく懐かしそうに、そしてちょっと頬を赤らめて話す姿はとても可愛らしかった。
時には切なそうに。
時には苦しそうに。
でも、おじいさんは僕たちに話し続けてくれたんだ。
おじいさんはその親友さんのことを、好きだったんじゃないかなって思う。
ずっとずっとずっと。
何十年もずっと…。
再会が叶わなかったおじいさんと親友さん。
おじいさんを見送った時…
僕はただただ涙が出るだけだった。
そんな僕の肩を、隣にいた智くんがそっと抱き寄せた。