第90章 My Angel
カチャン…
「……んっ…」
何だか遠くから音が聞こえたような気がして、僕は目が覚めた。
どれくらい眠っていたのだろう。
カーテンの隙間からは、まだ陽の光は入っていない。
まだ夜中、か…。
「さくら…いさ、ん…?」
一緒に寝てたはずの姿がない。
僕は目を擦りながら部屋を出た。
キッチンにその人はいた。
「あっ、ごめん。起こしちゃった?」
眉を下げながら、櫻井さんが冷蔵庫を閉める。
「らいじょ―ぶ、れす」
「あはは。どこが大丈夫なんだよ」
「んふふ」
ちゃんと言えてなかったのが、自分でもおかしくて笑えた。
ふと見ると、櫻井さんが持っているグラスには、牛乳が半分くらい入っていて。
僕は櫻井さんの顔をじっと見た。
…だから、あなたって人は。
「本当に好きなんですね、牛乳」
ちょっと口を尖らせ、拗ねながら言ってみた。
「えっ、な、何で拗ねてるの?」
…慌てる姿が可愛いすぎです。
「あっ。そうか。飲みたかった?これでよければ…」
…ふふっ。違うし。
僕はむうっと口を膨らませてみた。
「えっ、こ、今度はどうした?」
オロオロする櫻井さん。
僕は櫻井さんの手からグラスを取り、テーブルに置いた。
「また口の回りにつけてますよ、牛乳」
正面から櫻井さんの腰に手を回し、櫻井さんを見上げた。
「拭きたくないくらい、好きなんですね…牛乳」
「牛乳は好きだけど…」
櫻井さんも僕を見つめる。
「口の回りについてたらさ。これからも…あの時みたいにさ、大野が拭ってくれる?」
「んふふ。いいですよ」
僕は少し背伸びをし、牛乳がついてる櫻井さんの唇をペロッと舐めた。