第90章 My Angel
「あっ、いい匂い」
櫻井さんがニッコリする。
そうだ、オムライスを作ってる途中だった。
「どうしますか?先に食べますか?風呂にしますか?」
「えっと…先にオムライス食べたい」
「じゃあ、部屋着に着替えたほうがいいですね」
「そうする。着替え終わったら手伝うから」
「んふふ。待ってますね」
そんな会話をしたものの、繋いでる手をお互いに自分から離すことができない。
「お先にどうぞ」
「いやいや、そちらこそお先にどうぞ」
何度か繰り返してるうちに楽しくなってきて、終わりがみえない。
結局“せーの”の掛け声でパッと離すことにした。
「じゃあ、着替えてくるから」
僕からビジネスバッグを受け取った櫻井さんが
ちゅっ。
って僕にキスして部屋に向かう。
不意にキスされてびっくりしたけど、なんだか夢みたいで…すごく嬉しかった。
「どうしよう、ふわってならないかも」
櫻井さんがケチャップライスの上にたまごをのせるのをやりたいと言うので、お願いしたんだけど…
声もフライパンも震えてる。
「ぐちゃってしててもいいですから」
「ホント?それでもいい?」
「はい、大丈夫ですから」
フライパンの中のたまごが、プルプルとしながらケチャップライスの上にふわっと…
とはやっぱりいかなくて。
「上手くできなかった…ごめん…」
でき上がったオムライスをテーブルに運ぶと、櫻井さんが頭を垂れた。
「初めてだと難しいですよね」
「えっ?初めてじゃないよ」
マジか。
「4~5回作ったことあるけど…」
「そ、そうでしたかっ」
「うん。今回は上手くできなかったけど…次こそは、ふわっとろにするから」
過去の4~5回もきっと、めげずに挑戦したんだろうな。
櫻井さんのそんなところがいいなって思うし、可愛いくてたまらなくなる。