第90章 My Angel
突然のことにキョトンとしている櫻井さん。
「えっと、あの…」
口をパクパクさせながら、言葉にならない声を発している。
何かしら返事をしようとしてくれてるんだって思うと、胸がしめつけられた。
「急に言って、ごめ「謝らないで」…っ」
申し訳ない気持ちになって、ごめんなさいって言おうとした僕の言葉に、櫻井さんが被せてきた。
「謝られたら…謝られたらさ、さっき言ってくれたことが無かったことになる…」
「…はい」
僕も言葉がつまる。
お互い沈黙していると、昼休みから戻ってくる複数の話し声と足音が聞こえてきた。
「あれ?櫻井はいつものことだけど、大野がもういるなんて珍しい」
みんなそう言ってデスクに着く。
僕が3分前にいるの、そんなに珍しいかな。
「みんなひどいですよね」
さっきの気まずい雰囲気を何とかしたくて、櫻井さんに言ってみた。
「ふふっ。大野、口が尖ってるよ」
視点はそこだったか…って思いつつ、櫻井さんの表情が柔らかくなっていてホッとした。
僕もそろそろデスクに着かないといけない。
「じゃあ…」
「あ、待って」
櫻井さんに呼び止められてドキッとした。
まさか、いま返事くれる…とか?
いやいや、みんないるからそれはないよな…。
そんな僕の胸騒ぎをよそに
「今日さ…オムライスにしようか」
周りをキョロキョロしながら僕にしか聞こえないように櫻井さんが囁く。
えっ、夕飯の話…ですか?
ちょっとびっくりしたけど…
告白の返事でもなかったけど…
今晩も櫻井さんと一緒にご飯が食べられる。
そう思ったら、じわじわと嬉しさが込み上げてきた。
「オムライス、いいですね」
僕も櫻井さんに囁いた。